近年、日本でも乳癌の発症が急速に増加し、日本人女性の約20人に1人が一生の間に乳癌に罹患するといわれております。当科では検診で精密検査を勧められた方、乳房にしこりがあるなど何らかの症状のある方、あるいは症状はなくても乳癌検診を受けたいと思っておられる方の診察を行っております。
初診の方でも原則としてその日のうちに検査を終え、異常が無かった方は安心してお帰り頂けるよう、また更に検査が必要な方は迅速に次のステップへ進めるようになっております。
不幸にして乳癌と診断された方に対しては従来、拡大手術で乳癌を治そうとする考え方が一般的でしたが、現在では術前術後の化学療法、ホルモン療法、手術、放射線療法を組み合わせることによって乳癌の根治と整容性を両立させようとする考えが基本になっています。
当院では最新の診断装置、放射線治療装置、新築間もない入院施設、および外来化学療法室を備えており、同じ病院内でお一人お一人に最適と思われる一貫した治療を行うことができます。
また外科医のみならず、放射線科医、腫瘍内科医、看護士、心理療法士、薬剤師、理学療法士などがチームとなり診断から治療、そして術後のケアまで患者さんの身体的、心理的なきめ細かいサポートを行っています。
1.最新鋭の診断設備
1-1 マンモトーム
従来は生検することが難しかったマンモグラフィー上の微小石灰化病変、腫瘤径が小さく細胞診や針生検では正確な診断ができない病変に対しコンピューター制御下あるいはエコー下で正確に生検を行う装置です(図1)。
これにより従来は切除生検が必要であった病変も5mm程の切開で組織を採取することができるようになりました。更にこの装置によってDCIS(非浸潤性乳管癌)と呼ばれるほとんど転移しない早期の癌が多数見つかるようになりました。
1-2 FDG-PET(ペット検査)
CTやMRI、エコーといった検査と組み合わせることによって主に転移の有無の検索に威力を発揮します(図2)。
1-3 MRI マンモグラフィーや超音波検査でなんらかの異常が見つかった場合、乳腺MRI検査を行います。乳腺MRI検査はマンモグラフィーや超音波検査よりも精密な形態を映し出すことができるほか、病変部分が造影剤に染まってくるパターンを解析することによって、悪性か、良性かがある程度診断できます。また癌と診断された場合、その広がり方を正確にかつ立体的に表すことができるため、手術に時の最適な切除範囲を決定したり、手術前の抗癌剤治療の効果を判定するために非常に重要です。
乳房に対しては、乳腺専用受信コイルというものを使用することが推奨されていますが、日本では癌拠点病院ですら他のコイルで代用している施設が多いのが現状です。
当院では2007年12月に最新の乳房専用受信コイルを導入しました。
では乳房専用コイルと汎用コイルとでは何が違うのでしょうか?例えていうとテレビにおけるハイビジョン映像と普通の映像の違いのようなものです。汎用のコイルでは1mm程度の腫瘍や内部構造を映し出すことが限界だとすると、乳房専用コイルでは0.5mm以下の内部構造を鮮明に映し出すことも可能です。今まで何か異常があるようだけど小さく詳細が分からなかったものが、乳房専用コイルによって鮮明に映し出されるのです。
一般にMRI検査は上を向いてベットに上を向いて寝ていただくのですが、乳腺のMRIはうつ伏せに寝ていただき、受信コイルというのを装着します。検査時間時間は30分程度です。また、放射線を使いませんので被爆の心配はありません。
詳しくは当院、放射線科のサイトをご覧ください。
 

2 手術 現在、乳癌の手術方法としては胸筋合併乳房切除術、胸筋温存乳房切除術、単純乳房切除術、および乳房温存手術(乳房扇状部分切除術、乳房円状部分切除術など)があります。
従来広く行われてきた乳房切除術に代わって現在では乳房温存手術が増えています。ただし腫瘍径が3cm以下、広範囲の乳管内進展がない、多発病変でない、術後の放射線治療が可能であるといった制約があります。
術前化学療法を行ったうえで乳房温存手術が可能になる場合もあります。主治医とよく相談して術式を決めていただくことになります。
また最近では術前の検査で腋窩リンパ節の転移が確認されない場合は、手術で腋窩のリンパ節を完全に切除する代わりにセンチネルリンパ節生検といって乳腺に一番近いリンパ節だけを試験的に切除する方法が一般的です。
また通常の手術では切除が難しい進行した症例や局所再発の症例でも術前の化学療法やホルモン療法を行ったり、形成外科的な手法を併用することによって切除が可能になる場合があります。
通常の場合、手術の前日に入院して頂き、術翌日あるいは3−4日で退院が可能です。
3.補助療法
乳癌は手術、化学療法、ホルモン療法、放射線療法など治療法の進歩が最も速い疾患のひとつであり、標準治療といわれるものが年々変わっていきます。当院では基本的には世界の標準治療といわれているSt. Gallenコンセンサスの治療指針(2009年版)やNCCNのガイドラインに準拠した補助療法を行っています。
4.放射線療法 乳房温存手術後の乳房内再発を予防するため、放射線療法を行います。当院では精密な治療線量を正確に照射するため、3次元治療計画装置を使用しています。これにより照射プランを患者様個々の乳房形状や手術範囲によって最適化する事が可能です。
以下に治療計画から治療までの簡単な流れと、治療計画画像を示します。
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CT-スキャナーにて実際の治療体位で画像を撮像します。(図5) |
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CT画像データを3次元治療計画ワークステーションに転送し、放射線治療専門医が治療プランを作成します。(図6) |
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作成された照射プランを治療装置(リニアック)に転送し、そのデータに基づき治療開始となります。(図7) |
通常、1回の放射線治療は10分ほどで終わりますが、5週間ほど通院していただく必要があります。平日の午前あるいは午後に患者さんのご都合にあわせて予約をお取りします。

5.外来化学療法
術前に腫瘍を縮小させるための化学療法、あるいは術後に再発予防のために行う補助化学療法は乳癌の治療において大きな役割を担っています。しかしながら化学療法の度に入退院を繰り返さなければならないとしたら生活の質が落ちてしまいます。当院では副作用を最小限に抑えることによって可能な限り外来で化学療法を受けて頂き、普通どおり日常生活を送って頂けるように配慮しております。

6.乳がんの薬物療法 当院では術後の薬物療法として、基本的に世界の標準治療といわれているSt. Gallenコンセンサスの治療指針(表1-1,2)やNCCN (national Comprehensive Cancer Network;http://www.nccn.org/index.asp)のガイドラインに準拠した補助療法を行っています。
当院で使用する薬剤は下記に示すとおりであり、術後再発のリスク、ホルモン反応性、並びに閉経の有無などを考慮したうえで使用薬剤を選択します。また、最近では乳房温存率の向上を目指し、切除範囲の縮小を期待した術前化学療法も積極的に実施しています。当院における点滴の化学療法は主に外来で行っており、専用の部屋(通院治療室)で、薬剤師が無菌調製したお薬を専任の看護師がサポートしながら投与しています。さらに、治療に伴う副作用の予防及び対処、日頃の悩みなどのメンタル面を含めた総合的なケアも行っています。
★当院で使用されるホルモン療法剤 ・ 抗エストロゲン剤 :ノルバデックスR(一般名:クエン酸タモキシフェン)
・ LH-RHアゴニスト :リュープリンR(酢酸リュープロレリン)
・ アロマターゼ阻害剤:フェマーラR(レトロゾール)
・アリミデックスR(アナストロゾール)
・アロマシンR(エキセメスタン)
★当院で使用される主な化学療法剤及び化学療法レジメン <内服>
・ ゼローダR(カペシタビン)
・ ユーエフティカプセルR(テガフール、ウラシル配合剤)
・ TS-1R(テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウム配合剤)
・タイケルブR(ラパチニブ)
<点滴>
・ FEC80、FEC100〔5-FUR(フルオロウラシル)+ファルモルビシンR(塩酸エピルビシン)+エンドキサンR(シクロホスファミド)〕
・ ナベルビンR(酒石酸ビノレルビン)
・ weekly タキソールR(パクリタキセル)
・ タキソテールR(ドセタキセル)
・ ハーセプチンR(トラスツズマブ)
・TC〔タキソテールR(ドセタキセル)+エンドキサンR(シクロホスファミド)〕

7.インフォームド・コンセントとセカンド・オピニオン
乳癌の治療はその大きさ、転移の有無、ホルモン療法や化学療法の感受性、それに患者さん自身のいろいろな御希望によってさまざまな治療法が考えられます。正確な情報をお示しし相談しながら治療法を選択していただきます。他の施設にセカンド・オピニオンをお聞きになりたい方には喜んで資料をお貸ししますし、他の施設からのセカンド・オピニオンも歓迎いたします。

8.京都大学乳腺外科との連携
平成19年2月から京都大学に専門の乳腺外科が独立しました。当院の常勤の乳腺専門医に加え、京都大学乳腺外科から毎週火曜と木曜の午後、および第2、第4土曜日に派遣医師に来ていただき協力して診療にあったっています。また京都大学で乳癌の手術を受けられる方の術前検査(PET検査など)やマンモトーム生検などを当院で行っております。
表1 治療手段に対する閾値
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適応 |
コメント |
| 内分泌療法 |
わずかでもER染色陽性の場合 |
ER陰性/PgR陽性はおそらくartifact |
| 抗HER2療法 |
ガイドラインで定義されるHER2陽性(免疫組織染色陽性細胞が>30%又はFISH>2.2倍 |
各臨床試験の定義をもちいてもよい |
| 化学療法 |
HER2陽性 |
化学療法と抗HER2療法の同時もしくは逐次併用療法にエビデンスがある |
強陽性陽性では、化学療法なしの内分泌療法+抗療法が理論的には可能だがその根拠はない |
| Triple Negative |
殆どの患者 |
現時点で他に有効な方法はない |
| ER陽性・HER2陰性 |
リスクに応じて様々 |
表2のように臨床病理学的因子や患者の希望などから検討する |
(Goldhirsch, A., et al., Ann Oncol, 2009. 20(8): p. 1319-29.から改変)
表1-2. ホルモン受容体陽性・陰性患者に対する化学療法と内分泌療法の選択基準
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化学・内分泌療法の相対的適応 |
決定には役に立たない |
内分泌療法単独の相対的適応 |
| ERとPgR |
低いレベルのERとPgR |
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高いレベルのERとPgR |
| 組織学的グレード |
グレード3 |
グレード2 |
グレード1 |
| 増殖指標 |
高い |
中間 |
低い |
| 腋窩リンパ節転移 |
4個以上 |
1−3個 |
陰性 |
| 腫瘍周囲の脈管侵襲(PVI) |
広汎なPVIがある |
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広汎なPVIがない |
| 病理学的腫瘍径 |
>5cm |
2.1−5cm |
≦2cm |
| 患者の選好 |
使用可能なすべての薬剤を希望 |
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化学療法に伴う副作用は避けたい |
| 遺伝子シグネーチャー |
高スコア |
中スコア |
低スコア |
(Goldhirsch, A., et al., Ann Oncol, 2009. 20(8): p. 1319-29.から改変)
増殖指標、イデンシシクグネーチャーは日本では保険適応ではありません。
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